赤手空拳 4
八戒の見守る中 は三蔵との会話を終えて 身体を起こした。
額には 汗がにじみ 肩で大きく息をしている。
後ろからその肩を支えるように抱いた八戒は、思わず眉をひそめた。
「 貴女の気持ちは解らないではありませんが、無理をしすぎですよ。
今度は何をしたのですか?
にもしものことがあったら 僕は三蔵に 撃たれてしまいます。」
ようやく息が整った は 八戒に薄く微笑んで、
「大丈夫です 八戒。
三蔵たちのいる世界で まず 3人を捜すのが大変なために
疲れているようなものなので、今回は 目印を渡したのです。
もし 3人が離ればなれになっても 大丈夫なように 目印を3つ用意して
その具現化のために ちょっと余計に疲れただけですから、心配要りません。
それから 三蔵と悟空は 無事に悟浄とも合流できたそうです。
とりあえずは ひと安心ですね。」
「そうですか 悟浄も見つかったのなら 敵の攻撃もあるでしょうし、
あの3人なら 手早く片付けて 帰ってくるでしょう。
三蔵は 戦いにおいて 無駄が嫌いなタイプですからね。」
「八戒、たぶん敵を倒しても それだけでは 三蔵たちは帰れないと思うんです。」
「えっ、そうなんですか?」
「えぇ たぶん。
でも 私の力で 道をつければ それを頼りに覚醒できるはずです。」
「会話をするのでさえ ここまで疲れているのに、3人を覚醒させる様な事をしたら、
の身体が持たないのではありませんか?」
「でも それしか道はないと思います。
3人をこのまま眠らせておく訳にもいきませんし、敵を倒した後
あのまま あの世界にいたら ここで眠る身体は 衰弱して死に至ると思います。」
「無理を承知で はやるつもりなんですね。」
は 死をも覚悟している それは 八戒の確信に近い思いだった。
「 僕に何か出来る事はありませんか?」
八戒の問いに は笑顔で、「きっと 3人ともお腹が空いている事でしょうから、
何かおいしい物を食べさせてあげてください。
特に 悟空は 大変な事になっているでしょうから。
お願いしますね 八戒。」と言った。
「それは 任せてください。
僕の言っているのは の負担を軽くするための手伝いのことです。」
「ありがとう、でも 神力を使わなければダメみたいなんです。
だから 私1人で何とかしてみます。
それよりも もし 私に何かあっても 三蔵たちが自分たちを責めないように、
八戒が 話してあげてください。
他に選択の余地がなかったという事と、
私が 喜んで この作業に当たった事をです。
お願いしますね。」の顔には 笑顔があった。
「。」
「でも 私もがんばりますから 何とかなると思います。
覚悟はして向かわなければなりませんが、死に至る確率は少ないでしょう。
もちろん 暫くは 目が覚めないでしょうし 動けなくなると思いますが、心配しなくても
体力と神力が戻れば 元通りですから・・・ね。」
八戒には 何も言えなかった。
が 少ないとは言っても 死に至ることがない訳ではないし、むしろ 自分に
遺言めいた言葉を託すことからも 死ぬ可能性は高そうだ。
それでも 他に手段が無いのであれば やらなければならない。
三蔵と悟空・悟浄を ここで失うわけには いかないのである。
もそう考えているからこそ 自分の命を懸けるような事を するのだろう。
まして は 三蔵の前世である金蝉という恋人を 失ったことのある身だ。
たとえ 命を掛けてでも 救えるものなら救いたいと思うのは、想像に難くない。
八戒には の笑顔が たまらなく眩しく思えた。
***
三蔵たち3人が からの蓮の花びらを 受け取って暫くすると、
生き物の気配も感じなかった森に 何処からか 蝶が一匹 飛んできた。
三蔵たち3人を 誘うように目の前を飛んでいる。
「おっ、ようやく お誘いが来たようじゃん。」
悟浄は 蝶を見ながら 立ち上がった。
「よし 行くぞ。」三蔵も何時になく 行動が早い。
「待っててくれるかな? これから 運動すると腹が減ると思うんだよね。
何かうまい物 用意していてくれるといいんだけどな〜。」
悟空は いつものように お腹の心配をしている。
「のことだ 大丈夫じゃねぇの。心配いらねぇって・・・。
それより 悟空 暴れて大事な花びらを落とすんじゃねぇぞ。」
蝶に誘われるように歩きながら、悟浄は 悟空に釘を刺す。
「それは バッチリ! 大丈夫。
ズボンの後ろポケットに入れて ボタンかけたもん。」
悟空は得意そうに 笑顔で言った。
こいつら 普通に会話できるんじゃねぇか、
いつもの喧嘩や騒ぎは 無駄な体力の消耗なんじゃねぇか。
さっきも思ったが が下僕達に及ぼす影響は すごいものがあると 三蔵は思った。
三蔵も悟空と悟浄の喧嘩も止められるし、騒ぎも鎮められるが
それ以前に 喧嘩しないようになど出来ない。
自分にとっても と言う女は 愛しいし、
それだけでは 片付けられない女性になっている。
だが それは 三蔵だけに言えることではないらしい。
まったく たいした女だと 三蔵は 2人に気付かれないように 口元を歪めた。
誘われるままに 暫く歩くと 一軒の屋敷が見えてきた。
「ここか?」
「ここじゃねぇの。」
「いくぞ。」
3人は 屋敷の門をくぐり 玄関へと歩みを進めた。
玄関を開けて 中に入る。
礼拝所のようなその造りの祭壇らしき所に 1人の妖怪がうずくまって 香を焚き
何かを唱えていたが 三蔵たちの気配に 立ち上がり、
後ろを振り向いた。
「ようこそ 三蔵ご一行様。私はこの世界の王 藍錆でございます。
おや 2人足りませんね。あぁ それで 先ほど外からの力が加わったのですね。
あのお姫様の力なら 私のこの世界に 道を作ることが出来ますからね。
様といいましたか ここが片付いたら ぜひとも お会いしあのお力を頂きたいものです。
三蔵様が 愛でるのも分かりますよ。美しく聡明で 力も強い。
様のお力を頂くためにも 三蔵様たち3人には ここで眠りに就いて頂きましょうか。」
妖怪の言葉は 三蔵たち3人を怒らせるのに 充分なものだった。
「三蔵 俺達 ここで眠るわけには いかなくなったんじゃねぇの。
この野郎を の所に行かせるわけには いかねぇもんな。」
悟浄は 右手を構えると 手の中に錫杖が現れた。
「に 変な事してみろ この悟空様が ゆるさねぇぞ!
ここで 眠りに就くのはお前の方だよっと!」悟空は 如意棒を手に構えた。
「下僕達もそう言っているんでな、ここで 眠りに就くのは お前になりそうだ。
悟空、行け。」三蔵は 懐の愛銃を取り出し
戟鉄を起こすと構えながら 悟空を向かわせる。
「ちゃん 俺達に愛されちゃってるんだね〜。」
三蔵の表情を 目の端に捉えながら 悟浄も悟空の後を追った。
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